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「競争事業者間の業務提携・事業提携と独占禁止法」テキストデータを掲載しました

2021年07月11日

皆様からお問い合わせの多い「競争事業者間の業務提携・事業提携」論文〔PDFダウンロードはこちら〕について、テキストデータを以下に掲載いたします。御活用ください。

脱炭素SDGsサステナビリティの観点から若干の加筆を行いました〔2023年3月27日〕)

 

Ⅰ はじめに

事業者間においては、かねてから、経営資源の不足の補完、コスト削減、事業リスク軽減、事業展開スピード向上等様々な目的に基づいて様々な形態の業務提携が行われている。近年においては、脱炭素SDGsサステナビリティを推進するという観点から同業他社との共同の取組みを推進することの重要性が高まっており、その際に独占禁止法の観点から検討を行うことが急増しているように感じられる。
業務提携の形態は様々であるが、例えば公取委事務総局「業務提携と企業間競争に関する実態調査報告書」(平成14年2月)(「公取委報告書」)では以下の8類型に整理されている 。

①生産提携(生産業務を共同化するもののほか、生産品種の分担、製品の相互0EM供給等)
②販売提携(販売業務を共同化するもののほか、販売地域、販売商品の相互補完や、官伝、広告の制作、景品提供等の販売促進活動の共同実施等)
③購入提携(物品、資材の共同購入等)
④物流提携(物流施設の共同利用、工場から販売先への共同配送等)
⑤研究開発(提携基礎研究、応用研究文は開発研究活動の共同実施)
⑥技術提携(クロスライセンス、パテント・プール等、参加事業者がそれぞれ所有している技術を参加事業者間で相互に供与するもの)
⑦標準化提携(商品や部品等の種類、品質、規格等について、参加事業者聞で標準化するもの)
⑧包括提携(生産、販売等の個別の業務に限定せず、提携対象事業の業務全般において幅広く提携関係にあるもの)

公取委は、技術取引(ライセンス)や共同研究開発の局面における業務提携について「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月公表)等 において考え方を示し、事業者団体における共同事業(構成事業者の共同による事業活動の性格を持つ事業)について「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月公表)において考え方を示し、特定の業種等における業務提携についても「リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針」(平成13年6月公表)、「高速バスの共同運行に係る独占禁止法上の考え方について」(平成16年2月公表)等を公表して考え方を示しているほか、個別の具体的事例についても相談事例集、事前相談回答を随時公表して考え方を示している。しかし、生産や販売等の分野を含む業務提携に関して包括的に独禁法上の考え方を示したガイドラインは公表されていない 。
また、業務提携が合併、株式取得等の形態による場合にはいわゆる企業結合規制(独禁法第4章)の対象となり、公取委に対する事前届出(独禁法10条ないし16条)を要することとなる場合があるが、業務提携一般について事業者に対して公取委への事前届出・事後報告を義務付ける制度は存在しない。

Ⅱ 業務提携と独禁法

1 業務提携に関する検討の視点

業務提携は、複数の事業者が契約等に基づいて相互に事業活動を拘束することを内容とするものであるから、特に競争事業者相互の間において業務提携が行われる場合等には「他の事業者と共同して(中略)相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」に該当し、これにより「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限」(以上、独禁法2条6項)しているものとして「不当な取引制限」(独禁法3条)に該当するのではないか問題となる。
この点に関して、公取委報告書は業務提携に係る分析の視点として以下の項目を掲げており 、公取委が公表している相談事例集 その他事前相談回答等においてもこれらの視点が分析において用いられている。

(1) 業務提携の相手先
非競争事業者聞で実施される業務提携については、例えば部品メーカーと最終製品メーカーによる共同研究開発等を通じて参加事業者の競争者が取引先を失い市場から排除されるような場合に独禁法上問題となり得るものの、公取委報告書においては、通常は競争を制限するおそれは小さいとされている。これに対し、競争事業者間の業務提携は競争制限的な側面を有することも少なくないことから、正当化理由等、下記の各考慮要素をふまえた検討が必要とされることとなる。
公取委相談事例においては、競争事業者間における業務提携について不当な取引制限に該当するか否かが検討されている。

(2) 業務提携参加事業者の市場シェア
一般的には、参加事業者の合算市場シェアが高いほど競争に与える影響は大きく、逆に参加事業者の合算市場シェアが低いほど競争に与える影響は小さいと考えることができよう。
公取委相談事例における参加事業者の合算市場シェアは25%程度(平成12年事例11)から90%ないしほぼ100%(平成13年事例8、平成22年度事例3)まで区々である。これらのうち、公取委が独禁法上問題となる旨回答した事例における合算市場シェアはそれぞれ50% (平成17年度事例8)及び90%(平成13年事例8)である一方、合算市場シェアが同程度であった事例であった多くの案件では独禁法上問題ない旨の判断が示されており、最近では、合算市場シェアがほぼ100%に達する事業者間におけるOEM供給についても新規参入者の存在等を考慮して独禁法上問題ないとされている(平成22年度事例3)。これらの公取委相談事例から、合算市場シェアは(3)以下の要素をもふまえた競争分析における考慮要素の一つにすぎないことが窺われる。
なお、公取委は業務提携に関して合算市場シェアに基づく「セーフハーバー」(原則として競争減殺効果が軽微であるとされる範囲)を定めておらず 、これは、米国競争当局(FTC及びDOJ)が「競争事業者間の協働に関する反トラストガイドライン」(「米国水平提携ガイドライン」) において、合算市場シェアが20%以下にとどまる競争事業者間業務提携については当然違法原則の適用を受ける行為(いわゆるハードコアカルテル等)等を除き原則として規制対象としない旨の方針を示したことと対照的である。もっとも、公取委相談事例においても、合算市場シェアが20%を超えない事例が公表されることはまれである 。

(3) 業務提携の性格・市場の状況
ア 業務提携の目的と手段の相当性
業務提携は技術、設備等の相互補完等によるコスト削減や新規事業の早期展開を目的として行われることが想定されるところ、これらの目的が実現すれば消費者に便益がもたらされ得るのであり、また、競争事業者等が当該業務提携に対抗してコスト削減や製品開発を活発化させることにより競争が活発化していくことも期待し得る。
もっとも、業務提携において用いられる具体的な提携手法は、上記のような競争促進等につながる目的を達成するため相当のものであるべきであり、反競争的効果がより小さい代替手段をとることが現実的に可能であればそれが用いられるべきであろう 。この点に関して、事業者団体における共同事業における構成事業者への参加・利用強制や参加・利用に係る事業者間の差別的取扱い(事業者団体ガイドライン第2-11)や、企業間電子商取引市場設立に係る業務提携における特定事業者に対する同サイト利用制限や参加事業者に対する他サイト利用制限は独禁法上問題を生じるとされている(平成12年事例12) 。

イ 業務提携の内容
業務提携は、合併と異なり、典型的には事業活動の一部(生産・物流等)に限って実施され、その余については参加事業者による競争の余地が残されるのであり、また提携終了・解消により業務提携前の競争を回復することも合併に比して容易である。したがって事業提携は、事業者間に完全な又は相当程度の一体関係が生じることが検討の前提とされる企業結合(合併、株式取得等)に比して、競争に与える影響が小さい場合が多いと考えられる。
しかし、業務提携により生産数量や価格といった重要な競争手段について参加事業者間で一体化が進展していく場合には、参加事業者間の競争の余地が縮小し、あるいは消滅してしまいかねない。この点に関して、公取委相談事例においては、部品・資材等の共同購入・OEM供給において、生産・販売活動を各社独立して行うこととしていることが独禁法上問題ない旨の判断の根拠として明示されることが通例である(平成12年事例10・事例11、平成13年事例8、平成13年事例7、平成14・15年度事例11、平成17年度事例7、「三菱ふそうトラック・バス株式会社及び日産ディーゼル工業株式会社によるバスの相互OEM供給について」(公取委報道発表平成18年12月15日)、平成19年度事例2、平成20年度事例1、平成21年度事例4、平成22年度事例3)。
また、業務提携により一体化される業務の割合が高い場合には、参加事業者のコスト構造が近づき商品価格に係る競争の余地が減少していくことも考えられる。公取委相談事例では、資材共同購入に係る事業提携について購入価格が資材総額の7~8%にとどまり商品製造コスト全体に占める割合はさらに低いこと(平成12年事例10)、物流共同化において物流費が商品供給に要する費用の5%にとどまること(平成16年度事例4)を考慮して独禁法上問題ないとされた事例がある一方で、共通化される外注費が製品価格に占める割合が80%に及ぶケースでも有力な競争者の存在等を考慮して独禁法上問題ない旨の判断が示された例がある(平成12年事例11) 。また、OEM供給に係る事業提携については、OEM供給数量が各参加事業者の販売数量に占める割合も問題となり、これが数%ないし10%にすぎないことを考慮して独禁法上問題ないとされた事例(平成13年事例7)がある。なお、業務提携に係る事業の共通化割合について検討するに際しては、商品価格に占める共通化部分の割合と生産数量に占める共通化部分の割合の双方を総合的に検討することも重要であり、公取委相談事例においては、商品価格の相当部分を占める商品・部品の供給を受けることを内容とする事業提携について、供給割合が約15%にとどまること等を考慮すれば直ちに独禁法上問題とはならないとされた例もみられる(平成17年度事例7、平成20年度事例1)。
さらに、業務提携により各参加事業者の価格・(購入・販売)数量等に係る情報が共有される場合には、これら重要な競争手段に関する相互拘束ないし共通認識が形成されていくことも考えられる。公取委相談事例においては、相互OEM供給によりOEM供給分に係る生産数量情報が共有化される事例において、OEM供給割合が約3ないし6%にすぎないことが考慮され独禁法上直ちに問題となるものではないとされた例もあるが(平成19年度事例2)、むしろ、参加事業者が他の参加事業者の価格・(購入・販売)数量に係る情報にアクセスできないよう情報遮断措置をとることとしていることを独禁法上問題ない旨判断する際の前提としている例が多く見られる(平成12年事例12、平成16年度事例4、「三菱ふそうトラック・バス株式会社及び日産ディーゼル工業株式会社によるバスの相互OEM供給について」(公取委報道発表平成18年12月15日)、「スターアライアンス加盟航空会社8社における情報共有について」(公取委報道発表平成23年10月21日))。
業務提携の内容について検討する際には、上記の各要素を総合的に検討することとなる。例えば、公取委相談事例では、合算市場シェアが90%に及ぶ事業者間の相互OEM供給について、販売活動は各事業者が独立に行うものの、供給対象商品の製造コストが販売価格の相当部分を占め供給数量も各社生産数量の30ないし40%を占めることとなり、製造コスト等事業活動上重要な情報が共有されることが懸念される事例について、これらの事実関係を考慮し検討した結果、独禁法上問題となるとされている(平成13年事例8)。

ウ 業務提携の実施期間
業務提携は合併と異なり一定の期間を限って実施されることが考えられ、その場合には、業務提携解消後における競争の可能性が残されていると考えることができよう。
もっとも、公取委相談事例において業務提携の実施期間が独禁法上の検討における考慮要素とされている例はまれであり、わずかに、参加事業者から公取委に対して業務提携に係る契約期間が2年間である旨の説明があった旨が記されている例がみられる程度である(「ヤフー株式会社がグーグル・インクから検索エンジン等の技術提供を受けることについて」(公取委報道発表平成22年12月2日))。

(4) 市場の状況
公取委相談事例においては、以上の検討のほか、有力な競争者が複数存在すること、市場参入の容易性、需要者の交渉力等、検討対象市場における競争の状況に影響を有すると考えられる様々な事実関係を考慮したうえで、独禁法上の問題の有無について検討されている。これらの考慮要素は、公取委が企業結合審査において「競争を実質的に制限することとなる」か否か検討する際に考慮することとしている要素(「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日)「第4」以下)とおおむね同一である。
上記のとおり、業務提携は一般的には部分的提携関係を意味することが多いので、事業者間に資本関係、役員兼任、業務提携等に基づいて「結合関係」と呼ばれる一体的関係が生じることを検討の前提とする企業結合審査とは、上記(3)の各要素についての考慮の要否やあり方において相違が生じることとなる。しかし、検討対象市場の状況に関する競争者の状況、輸入・参入・需要者からの競争圧力等をめぐる競争分析においては、業務提携においても企業結合においても同様の事実関係に着目することが自然なことであると思われる。

2 企業結合審査との境界線

業務提携は、上記のとおり部分的提携であって期間を定めた提携関係にとどまることが典型的に想定される点において、一般的には、複数事業者が完全かつ期間を定めずに一体化することとなる合併等とは相違する面があるということができよう。
しかし、業務提携後に競合事業者間に残される競争の有無や程度は事案により区々であること、企業結合規制対象行為のなかにも複数の事業者が一定程度一体化するにとどまる類型があること(少数株式取得等 )からすると、業務提携と企業結合との境界線が一義的に明確であるとまでは考え難いように思われる 。
また、現行のわが国独禁法における手続等についてみても、企業結合規制の対象行為が株式取得、合併、事業譲受等、取引形態により縦割りで規定されているため規制範囲に間隙が生じていること(例えば、有限責任事業組合設立による生産統合等は「会社の株式を取得」等(独禁法10条1項、15条の2、16条)を伴わないため、企業結合規制の対象とすることには疑義が残る) 、業務提携について事業者が取引実行前に公取委へ自発的に相談した場合には企業結合審査と同様に「事前審査」が行われることからすると、業務提携に係る審査と企業結合審査との境界線は審査手続の観点からみても必ずしも明確ではない 。

 

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