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EUデジタル市場法(DMA)の解説 ~独禁法の平山法律事務所~

2024年03月27日

EUデジタル市場法(The Digital Markets Act) 〜 規制の概要と我が国への示唆 〜

平山法律事務所代表弁護士・筑波大学大学院ビジネスサイエンス系准教授

平山 賢太郎(ひらやま けんたろう)

 

1 はじめに

(1)EUデジタル市場法の成立

EUデジタル市場法(Regulation (EU) 2022/1925。以下「DMA」)が2022年11月1日に発効し、2023年5月2日に施行される。DMAは、「コアプラットフォームサービス」(core platform service)と呼ばれるデジタルサービスを提供する大規模なオンラインプラットフォームを「ゲートキーパー」(gatekeeper)に指定して様々な義務を課す新たな規制である。

DMA発効後の欧州においては、法執行の内容や手続に関する具体的な議論が急速に深化している。規制の概要や議論のトレンドを理解することは、我が国における将来のデジタルプラットフォーム規制のあり方を具体的に検討するための示唆に富むものであるといえる。

 

(2)競争法とEUデジタル市場法

欧州委員会や欧州連合加盟国各国競争当局は、欧州競争法や欧州連合加盟国各国競争法に基づいて、デジタルプラットフォーム事業者に対して様々な事件審査を行ってきた。

しかし、競争法によるデジタルプラットフォーム規制に対しては、①欧州競争法により禁止される「支配的地位の濫用」の認定には検討対象市場の画定及びその市場における支配的地位の認定が必要であるところ、デジタルプラットフォームが多数のサービスから構成される「エコシステム」を構築することによって参入障壁を形成していることにかんがみれば、個々のサービスについての市場画定や支配的地位認定は問題の正確な把握につながらないのではないか、②欧州委員会が個々の事例について“消費者厚生基準”に基づく反競争効果を立証する負担を負うという現状の事後規制においては、経済分析など複雑かつ長期間にわたる審査が必要とされることによって過少執行に陥ってしまうのではないか、などの懸念が示されるようになった(包括的な検討として、Jacques Crémer et al., European Comm’n, Competition Policy for the Digital Era (2019)などがある)。

これらの懸念を背景として、支配的地位や反競争効果の認定を要しない事前規制の導入が欧州委員会によって検討され、欧州議会等における審議を経てDMAが成立した。

欧州委員会は、事前規制であるDMA は事後規制である競争法を補完するものであって、欧州競争法や欧州連合加盟国各国競争法の執行を制限するものではないと説明している。また、デジタル分野のサービスをDMAによる規制の対象に追加するか否か検討する際には欧州競争法に基づく調査の結果を考慮するものとされており(19条1項)、このことは、欧州競争法による事後規制がDMAの実効性維持のための補完的役割を有することを示唆している。

 

(3)競争可能性と公正性

DMAの目的は競争可能性(contestability)と公正性(fairness)である。

ゲートキーパーが多数のデジタルサービスからなるエコシステムを形成するなどして参入障壁を構築すれば、新規参入者が競争に加わることが困難になってしまうだろう。DMAは、参入障壁を解消して競争可能性を確保するため、ゲートキーパーに様々な義務を課すこととした(前文32項)。デジタル分野においてはデジタルプラットフォームによる“勝者総取り”が生じてしまいやすいと指摘されていることにかんがみれば、“勝者総取り”が未然防止されるような市場構造を確保して競争可能性を維持するという事前規制の手法にはメリットがあるといえるだろう(参照、Akman, P. (2022). Regulating Competition in Digital Platform Markets: A Critical Assessment of the Framework and Approach of the EU Digital Markets Act. European Law Review, 47(1), 1-21)。

また、ゲートキーパーは優越的な交渉力(superior bargaining power)を有し、また取引におけるゲートウェイの地位を有しているので、たとえば、コアプラットフォームサービスの利用について均衡を欠いた不公正な取引条件を一方的に設定できるだろう。DMAは、かかる不公正性に対処するため、ゲートキーパーに様々な義務を課すこととした(前文33項)。

 

2 ゲートキーパー

DMAによって義務を負う者は、「ゲートキーパー」に指定された事業者である。

 

(1)定性的な定義

ゲートキーパーに指定されるのは、➊欧州連合域内市場に対して重大な影響力を有し、➋「コアプラットフォームサービス」であって利用事業者(business user)がエンドユーザー(end user)へ到達するための重要な経路(gateway)であるものを提供し、かつ、❸その運営において、確立した永続的地位を享受しているか近い将来享受すると予見されている事業者である(3条1項)。

「コアプラットフォームサービス」は、DMA発効時点においては①オンライン仲介サービス(例:eBay, Airbnb)、②オンライン検索エンジン(例:Google, Bing)、③オンラインソーシャルネットワーキングサービス(例:Facebook, Twitter)、④ビデオ共有プラットフォームサービス(例:YouTube, Vimeo)、⑤電話番号に依存しない個人間コミュニケーションサービス(例:WhatsApp, Telegram)、⑥オペレーティングシステム(例:macOS, Microsoft Windows, Android)、⑦ウェブブラウザ(例:Google, Mozilla Firefox)、⑧仮想アシスタント(例:Amazon Alexa, Apple’s Siri)、⑨クラウドコンピューティングサービス(例:Google Cloud, AWS)、及び⑩オンライン広告サービスやその仲介サービス(例:Google AdSense, Google Ad Exchange)である(2条2項。括弧書きにて参考例を付記したが、これらのサービスを提供する事業者がゲートキーパーに指定されるか否かは下記(2)(3)に基づく評価による)。

 

(2)ゲートキーパー該当性の判定

DMAは、ゲートキーパー該当性の判定のために①定量的基準による推定及び②市場調査に基づく個別指定の二つの方法を設けている。

 

(A)定量的基準による推定

DMAは、ゲートキーパー該当性の上記3要件について、それぞれ、➊事業者の欧州連合域内売上高や市場価値、➋欧州連合域内におけるコアプラットフォームサービスの利用事業者数・エンドユーザー数、❸利用事業者数・エンドユーザー数の推移(過去3事業年度)に基づく基準値を設定し、当該基準値を超える場合には各要件を充足する旨推定することとしている(3条2項)。これらの基準値をすべて満たす日本企業はないだろうといわれている。

コアプラットフォームサービス提供事業者は、これらの基準値をすべて充足するコアプラットフォームサービスを遅滞なく(遅くとも2か月以内に)欧州委員会へ通知しなければならない(3条3項)。DMA施行後はじめてのゲートキーパー指定は、コアプラットフォームサービス提供事業者からの通知に基づく審査(45営業日以内。3条4項)を経て遅くとも2023年9月6日までに行われるものと見込まれている。欧州委員会は、ゲートキーパーを指定する決定文において、ゲートキーパー該当性の定義のうち第2要件(利用事業者がエンドユーザーへ到達するため重要な経路であること)をみたすコアプラットフォームサービスを列挙する(3条9項)。

コアプラットフォームサービス提供事業者が上記推定に疑問を投げかける反証を提出した場合には、欧州委員会は市場調査を開始することができる(3条5項)。

 

(B)市場調査に基づく個別指定

コアプラットフォームサービス提供事業者が上記の基準値を充足しない場合であっても、欧州委員会は、市場調査を実施したうえで当該事業者をゲートキーパーに指定することができる(3条8項)。調査対象事業者が調査に対する重大な不遵守に及んだ場合等には、欧州委員会は入手できた情報に基づいて当該事業者をゲートキーパーに指定してよい(同項)。

市場調査による個別指定に関して、twitterをゲートキーパーに指定すべきであるとドイツ連邦経済労働省高官が主張した旨報道され(2022年12月)、注目されている。

 

3 ゲートキーパーが負う義務

(1)概要

DMAは、ゲートキーパーに指定されたコアプラットフォーム提供事業者が競争可能性や公正性を制限する事態に対処するため様々な義務を課しており、第5条各項所定の義務はブラックリスト、第6条所定の義務はグレーリストと呼ばれることがある。DMAは義務の内容を「do’s」(行為の義務づけ)及び「don’ts」(行為の禁止)と書き分けているが、以下ではまとめて説明する。

事前規制であるDMAは、ゲートキーパーに対して市場支配的地位や反競争効果の認定を経ることなく義務を課す点において競争法と大いに異なっている。ゲートキーパーの求めによる義務の免除が公衆衛生や安全保障を理由とするものしか認められていない点も、競争法とは異なるDMAの特徴である(10条参照。欧州競争法においては認められることがある“効率性向上”などを理由とする免除は、DMAによる規制においては認められない)。

ゲートキーパーに対して課される義務は多岐にわたるが、以下の4点が注目される。

 

①自己優遇の禁止

ゲートキーパーは、自社の商品・サービスを他社のものよりも有利に扱ってはならない。ゲートキーパーは、エンドユーザーに対して商品・サービスの順位等を表示するランキングに透明・公平・非差別的な条件を適用しなければならない。

 

②バンドリングの禁止

ゲートキーパーは、自社のコアプラットフォームサービス(オペレーティングシステムなど)にプリインストールされたソフトウェアをアンインストールできるようにし、他社製ソフトウェアをインストールできるようにしなければならない。ゲートキーパーは、利用事業者が提供するサービスのエンドユーザーに対する課金について、ゲートキーパーが提供するアプリ内課金の利用を強制してはならない。

 

③データの適正な利活用及びデータへのアクセス確保

ゲートキーパーは、コアプラットフォームを通じて収集したエンドユーザーの情報を、特別の同意を得ない限り、他のサービスを通じて取得したデータと組み合わせて利用してはならない。ゲートキーパーは、コアプラットフォームを通じて生成されたデータについて、データポータビリティを確保しなければならない。

 

④広告サービスの透明性

ゲートキーパーは、広告サービスの価格設定等について透明性を確保し、利用事業者に情報を提供しなければならない。

 

(2)行為に関する義務

(A)ブラックリスト(第5条)

DMA5条各項により規制される行為は、ほぼすべてが競争法に基づく欧州委員会(または欧州連合加盟国競争当局)による調査・処分の先例に対応しており、競争可能性や公正性に対する影響の発生機序を説明しやすい行為が列挙されているといえる。本条各項所定の義務については、後述する第6条・第7条とは異なり、義務遵守のため講じるべき措置の内容についてゲートキーパーが欧州委員会に対して判定等を要請するという対話のプロセスが設けられていない。

本条各項所定の義務のうち、個人データの不当な利活用の禁止〔2項〕はドイツ当局によるフェイスブックに対する件、価格等同等性条件の禁止〔3項〕は欧州委員会およびドイツ当局によるアマゾンに対する件、コアプラットフォーム外取引の許容義務〔4項〕・附属サービス利用強制等の禁止〔7項〕は欧州委員会によるアップルに対する件(App Store)、エンドユーザーによる別サービス利用の許容義務〔5項〕・ゲートキーパーが提供する別のコアプラットフォームサービスの利用強制禁止〔8項〕は欧州委員会によるグーグルに対する件(Android)、広告主等への情報提供義務〔9項・10項〕はフランス当局によるグーグルに対する件(AdTech)における違反行為や違反被疑行為にそれぞれ対応しているとみられる。

 

(B)グレーリスト(第6条)

DMA6条各項は様々な義務を列挙しているところ、ゲートキーパーは、本条所定の義務を遵守するために講じようとしている(または、すでに講じた)措置が実効的なものであるか否か判定するよう要請することができ、当該要請を受けた欧州委員会は裁量により要請に応じることができる(8条3項)。本条各項所定の義務はゲートキーパーを指定することによって直ちに効力を生じるものの、その後に行われる対話のプロセスを経て個々のゲートキーパーそれぞれについて義務の内容を具体化することが想定されているのである。

本条各項所定の義務には、たとえば、①自己優遇に関連する行為の禁止(利用事業者が生成したデータの利用禁止(2項)・ランキング表示における自己優遇の禁止(5項))、②マルチホーミングやスイッチング(ゲートキーパーが提供するサービスのエンドユーザーが、他社が提供するサービスを併用したり他社が提供するサービスへ乗り換えたりすること)を制限する様々な行為の禁止(3・4・6・7・9・10項等)、③広告サービスの透明性確保義務(8項)などが含まれている。これらの義務のうち、2項は欧州委員会のアマゾンに対する件、3項・4項は欧州委員会のグーグルに対する件(Android)、5項は欧州委員会のグーグルに対する件(Shopping)、7項は欧州委員会のマイクロソフトに対する件における違反行為や違反被疑行為にそれぞれ関連しているとみることができる。

ランキング表示における自己優遇の禁止(5項)について、DMAは、ランキング表示における自己優遇と同等のあらゆる手段を禁止すべきである旨明言している(DMA前文52項。なお、規制潜脱行為は13条によって禁止されている)。このことの具体的な運用のあり方は早くも争点化しつつあり、欧州委員会が開催した公開ワークショップ(2022年12月)においては、たとえば、ソーシャルメディアにおけるニュースフィード表示、商品購入後にエンドユーザーあて送信されるメールなどの扱いが議論された。

 

(C)コミュニケーションサービスの相互運用性確保(第7条)

DMA7条は、電話番号に依存しない個人間コミュニケーションサービスを提供するゲートキーパーに対して、他のコミュニケーションサービス提供事業者からの要求に応じて技術インターフェース等を無償で提供し、基本機能の相互運用性(たとえば、インターフェースなどを介して情報をやり取りでき、ソフトウェアが他のハードウェアにおいても機能すること。2条29項参照)を確保することを義務付けている。

本条所定の義務については、その内容の複雑さに応じて異なる履行期限が設定されている(ゲートキーパーに指定された時点、その2年後及び4年後。たとえば、動画・音声による通話における相互運用性の確保は4年後である)。本条所定の義務の履行についても、第6条所定の義務と同様に、ゲートキーパーが欧州委員会に対して措置の実効性に関する判定を要請することができる(8条3項)。

 

(3) 企業買収等の通知義務

欧州委員会は、①企業買収等(企業結合)のうち買収者・被買収者の売上高が所定の基準値を超えるものについて当事会社に事前届出義務を課しており、届出を受けて欧州競争法に基づく審査を行うほか、②欧州連合加盟国当局から案件の付託(欧州企業結合規則22条)を受けた場合にも欧州競争法に基づく審査を行うことができる。

欧州委員会が定める基準値(上記①)に対しては、将来的な成長可能性を有するスタートアップ等を強大なデジタルプラットフォームが買収する案件(killer acquisition・nascent competitor acquisitionと呼ばれることもある)が、被買収者であるスタートアップの売上高が僅少であるがゆえに事前届出義務を免れてしまうという問題があると指摘されている。

かかる問題意識を背景として、DMA14条1項は、コアプラットフォームサービスやデジタル分野のサービスを提供したりデータ収集を可能にしたりする事業者の買収等について、欧州委員会や欧州連合加盟国がそれぞれ定める競争法上の事前届出義務が生じるか否かにかかわらず、欧州委員会へ❶当事会社の名称、❷欧州連合域内及び全世界の年間売上額、❸買収価格、❹買収等を行うことに関する合理的根拠や関連加盟国リストなど案件概要を通知するようゲートキーパーに義務付けた。

DMA14条1項は、ゲートキーパーに対して欧州競争法に基づく欧州委員会への事前届出を義務付ける規定ではない。しかし、同項に基づく案件概要の通知を受けた欧州委員会は欧州連合加盟国競争当局に付託(上記②)を促すことができるので、付託を受けることによって欧州競争法に基づく審査を開始することができる。

 

4 コンプライアンス態勢の整備と開示

ゲートキーパーは上記3(2)記載の行為義務を遵守していることの立証責任を負い(8条1項)、DMA5~7条所定の義務を履行するため講じた措置を詳細かつ透明性ある方法で説明した欧州委員会あて報告書を最低年1回更新しなければならない(11条1項・2項、なお3条10項)。欧州委員会は、報告書要約版ウェブサイトへのリンクを作成して公開する(11条2項)。

DMAは、ゲートキーパーに対して単に抽象的にDMAの遵守を求めるにとどまらず、業務運営から独立したコンプライアンス部門を設置させ、コンプライアンスオフィサーにDMA遵守確保のための措置を計画し監視・監督させたり(28条)、消費者プロファイリング技術について独立の監査人による説明を作成させてその概要を少なくとも毎年1回公表させたりすること(15条)によって、規制の実効性を担保している。

 

5 不遵守に対する制裁等

(1)公的執行

欧州委員会はDMAの執行権限を有し、ゲートキーパーに対して排除措置等や制裁金支払を命じることができる。欧州連合加盟国競争当局もゲートキーパーのDMA遵守状況を調査して調査結果を欧州委員会へ報告することなどができるが(たとえばハンガリーは必要な国内法を競争法改正によって整備した)、欧州連合加盟国当局は、欧州委員会がDMAに基づいて行う決定に抵触する決定を行ってはならない(1条7項)。欧州連合加盟国競争当局が各国競争法に基づいて調査や処分を行うことは妨げられないので、欧州委員会によるDMAに基づく調査や処分との間には事実上重複が生じることも想定され、調整のあり方が議論されている。

欧州委員会による調査手続は競争法に基づく調査手続と類似しており、情報提供要請、事情聴取、立入検査などの調査手法がDMAに定められている(21~23・26条)。ただし、競争法に基づく調査手続とは異なり第三者は正式な申告・措置要請(complaint)を提出する権利を有していないので、欧州委員会や欧州連合加盟国競争当局は第三者から提供された情報の取扱いについて完全な裁量を有しており、フォローアップ調査を実施する義務を負わない(27条)。

欧州委員会は、ゲートキーパーに対して、①利用事業者やエンドユーザーに深刻かつ回復不能な損害が生じる危険がある緊急の場合には、DMA5~7条所定の義務に違反している旨の疎明に基づいて暫定措置を命じることができるほか(24条)、②DMA5~7条所定の義務等の不遵守を認定して不遵守行為の停止や制裁金支払(当該ゲートキーパーの前会計年度世界売上高の最大10%であり、累犯加重の規定も設けられている)を命じることができ(29・30条)、さらに、③当該ゲートキーパーがDMA5~7条所定の義務について不遵守決定(上記②)を8年間に3回以上受けるという組織的な不遵守を行いゲートキーパーの地位を維持・強化・拡大したことが市場調査によって明らかになった場合には、行動的是正措置(取引条件の変更等)や構造的是正措置(事業の売却、企業買収の禁止、データ収集の禁止等が想定され得る)を命じることができる(18条)。

 

(2)私的執行(民事訴訟)

DMAは私的執行(民事訴訟)について詳細な定めを設けていないが、私的執行を排除しておらず、消費者団体訴訟の提起を明示的に許容している(42条)。

民事訴訟手続において、欧州連合加盟国裁判所は欧州委員会に対する意見照会等や欧州司法裁判所に対する先決裁定の要請を行うことができ、欧州委員会は欧州連合加盟国裁判所へ意見書提出等を行うことができる(39条)。

 

6 我が国への示唆

我が国におけるデジタルプラットフォーム規制はデジタルプラットフォーム取引透明化・公正化法、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法、独占禁止法等に基づいて行われているところ、DMAは、我が国における規制のあり方について検討するための重要な素材を提供するものであるといえる。

DMAは、第6条・第7条所定の義務の履行方法を具体化するために、ゲートキーパーと欧州委員会による対話のプロセスを導入している。取引条件の改善や開示の具体的なあり方に関するデジタルプラットフォーム提供者と当局との対話のプロセスは、我が国がデジタルプラットフォーム取引透明化・公正化法(2021年2月施行)によって欧州に先行して導入しており、利用事業者向け相談窓口や有識者によるモニタリング会合も活用することにより取引条件やその開示の改善を着々と実現している。我が国政府は、この経験を、G7会合などの機会において世界へアピールすることができるだろう。

デジタルプラットフォーム取引透明化・公正化法の運用においては、デジタルプラットフォーム提供者の自主性や自律性に配慮しながら、いわゆるアジャイル・ガバナンスの手法を用いることによってデジタルプラットフォーム提供者と利用事業者との相互理解の深化を図っており、DMAや欧州競争法とは異なり排除措置命令や制裁金賦課のような制裁が(公正取引委員会への措置請求のほかには)予定されていない。制裁に関する制度設計は難題であり、欧州競争法に対しては、➊審査・訴訟の長期化により迅速な競争回復が困難であることや➋制裁金支払義務を課すだけでは抑止力が乏しい場合があること等の問題点が指摘されてきた。他方で、DMAに対しては、①市場画定や反競争効果認定が不要であり迅速な執行が可能であるといわれているにもかかわらず暫定措置の規定を設けているのは、実は通常審査に相応の期間を要することを想定したものではないか、②制裁金支払に加えて事業売却など構造的な是正措置を命じるためには組織的不遵守の認定が必要であるが、多数回の不遵守認定を要するなどハードルが高いのではないか等の疑問が生じ得るところである。我が国において事前規制への制裁措置導入を検討するにあたっては、DMA執行の動向を注視することが重要である。

DMAは様々なコアプラットフォームサービスを指定し、これらのサービスを運営するゲートキーパーの様々な行為を規制しているが、規制対象行為の多くについて欧州委員会や欧州連合加盟国競争当局による競争法執行先例が存在し、審査結果が詳細に公表され研究対象とされてきたことに注目する必要がある。欧州においては、競争法分野において蓄積されてきた経験がDMA5条などのベースになっていることが広く認識されており、このことが事前規制に対する相応の納得感をもたらしているように感じられる。これに対して、我が国では独占禁止法分野において公正取引委員会がデジタルプラットフォームに対して正式審査を行った事例はきわめて限られており、しかも、審査結果はわずか数ページの公表文に概要が記されるにすぎず研究や分析の障害となっている。我が国において事前規制の対象サービスや対象行為を拡大するにあたっては、公正取引委員会による独占禁止法分野の事件審査経験や国民への開示が欧州に比べて圧倒的に乏しいという現実を直視し、デジタル市場競争本部などによる政府全体の取組みとして取引実態の詳細な把握及び分析を急ぐ必要があるだろう。

 

以 上

 

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